考古学コラム Archeology Column

コラムNo.30 絶滅危惧種化を防げ

新潟市文化財センター 本間 敏則

ネット検索していたら東大の設楽博己教授の「考古ボーイの絶滅危惧種化を憂う」というエッセイを見つけた。内容は考古ボーイとは遺跡をうろついて遺物を採集する趣味を持った少年で、先生自身も同様な経験を積んで考古学を志したとのことである。しかし、いまや考古ボーイは絶滅危惧種化しており、田畑に行っても遺物は拾えず、中学、高校には郷土クラブは無く、大学に考古学を専攻する学生にも考古ボーイを殆んど見かけないという。専攻の動機は様々であってよいが、同じ経験を積んだものの減少はさみしいし、考古ボーイの絶滅を招くような、真の意味でのゆとり教育の欠如を遺憾に思うとしている。

本コラムでも数名の方が考古ボーイ時代の思い出を書き、その後の進路に繋がっていることを述べているし、私も宝物集めと同じ感覚で弥彦、角田山を中心に土器や石器の収集を行い仲間もたくさんいた。昭和40年代頃はまったくの普通種であったと思う。

私達の場合は、集めた土器など上原甲子郎先生に見てもらっていた。先生は長髪、大柄でパイプをくわえ、菖蒲塚古墳の「だ龍鏡」のことや緒立遺跡での縄文から弥生に関する研究について熱く語り、子供の私は、何とカッコイイ大人なんだ、将来は考古学をやりたいと強く思った。ただ何故か、この世界に足を踏み込むと危険なんだと薄々感じたことも覚えている。

その後、私は全く違う進路に進み、新潟市に就職し考古学愛好者として過ごしてきた。定年を迎え愛好者としての経験を生かせと文化財センターに再任用され平成25年からお世話になっている。仕事は活用普及事業で、来館する小学生などに展示説明をしたり、体験では火おこしや、勾玉、拓本、和同開珎、鏡つくりをやったり、講座では模擬発掘を含んだ子供向けの考古学教室や土器つくりなどを行っている。

確かに子供向けの企画を行うと、目を輝かせ興味も示すし、歴史好きな子供にも多く出会う。この2年間で2千人以上の小学生、中学生に接してきて、中には戦国大名に詳しい子やヤマトタケルに詳しい子など、すごいと思う子は数人いた。

ただ、ただである。考古ボーイには、いまだに巡り合えていないのである。そういえば当センターでの一般市民向けの年6回の考古学講座や、遺跡発掘調査速報会などにも小中学生、高校生の姿はほとんど見かけない。

これではまずいと思い、昨年から来館する歴史好きのこれは!と思う子供には、考古学の楽しさを含めて特に詳しく展示解説し、本物の土器に触らせて「遺跡では遺物が落ちていることがある。そして何より保護は重要だ。」と説明し「とにかく実際に遺跡に行って見てごらん。」と強く勧めている。

考古学や郷土史に興味を持つ子は絶対に皆無ではない。子供たちに遺跡に行ってみること、遺物に直接触ってみることなど自分自身が経験した考古学の楽しさを広げ、考古ボーイの絶滅危惧種化を防ぎたいと思う。もし絶滅種となれば、私たちは生きた化石になるわけだから。