考古学コラム Archeology Column

コラムNo.22 展示の妙~考古展示を考える

小熊博史(長岡市馬高縄文館)

馬高縄文館といえば、「火焔土器」と「史跡馬高・三十稲場遺跡」。博物館や資料館をもっとも特徴づけているのは展示のテーマです。市民にとっては、その博物館や資料館の「顔」というべきイメージになるでしょう。博物館の展示とは、モノ(=博物館資料)を単に陳列するのではなく、「展(ひろ)げて示す」ことであり、意味と目的をもって示すコミュニケーションの一形態といわれます。つまり、展示を企画した学芸員の主張が表現されているのです。

展示といってもさまざまな形態があるわけですが、ふつう常設展示と特別展示(企画展示)に分けられています。常設展示はその館を特色づける資料で構成された恒久的なものであるのに対して、特別展示は一定の期間内に特定のテーマで組んだ臨時的な性格です。特別展示は、展示の新たな構想を企てる機会であり、学芸員の腕の見せ所といえるでしょう。学芸員としては、さまざまなアイデアを生み出すことのできる、もっとも楽しい過程かもしれません。

 そうはいっても苦労するのが実際の仕事です。企画や情報収集等は実施する数年前に始まり、資料調査に基づいて展示計画や予算案を策定していきます。準備作業には、資料借用の交渉、展示の演出に関わるグラフィック(パネル)の作成、関連する講演会や講座の立案など、ポスター・チラシ・図録などの編集や印刷など、実に細かな仕事があって、たくさんの時間と労力がかかるのです。館の規模や事情によっても異なりますが、近年では予算の削減もあってたいへん厳しい情勢が続いています。

 最近の博物館、特に私たちのような地方にある小規模館では、自前の資料に絡めてテーマを設定し、比較的コンパクトな規模で展示を構成するケースが多いようです。23年度を振り返ると、信濃川火焔街道連携協議会加盟の市町では、地元出土の装身具を核とした十日町市博物館「縄文のKAZARI-顔を飾る縄文人-」、伝統的な民俗技術と縄文文化を交えた津南町なじょもん「植物を『編む』-アンギンの里・津南の編み技術と歴史-」、地域の土偶にスポットをあてた三条市歴史民俗産業資料館「五十嵐川流域の土偶と縄文土器~吉野屋遺跡・土偶の世界~」などがありました。いずれも小規模ながら味のあるテーマや内容で構成され、地域の資料や特色をうまく生かした展示になっていると思いました。

 平成23年度の当方は、3本の特別展・企画展を担当しました。馬高縄文館では、夏季特別展「発掘された縄文時代の大集落・岩野原遺跡」と秋季特別展「国宝・重文火炎土器展」です。特に後者では、他館=十日町市と津南町から国宝と重文をお借りして、「指定文化財公開可能施設」としての実績を積むことができました。また科学博物館では、企画展「荒屋遺跡と旧石器文化」を開催しました。いずれの展示も地域の遺跡や遺物を活用したローカルなテーマです。

展示の規模や点数にとらわれず、地域の遺跡・遺物を中心に構成して、説明的なグラフィック等は最小限にすることを、日ごろ心がけています。考古展示の主役は、遺物=モノです。たとえ数は少なくともモノの構成や示し方によって、モノの魅力やその特徴を引き出し、観覧者に伝えることはできると思います。それが展示の妙といえるのではないでしょうか。今後も信濃川火焔街道連携協議会加盟各館と連携して、地域の資料を積極的に活用した展示を目指していきたいと考えています。