考古学コラム Archeology Column

コラムNo.21 「アウェイ」の楽しさ

新潟市文化観光・スポーツ部歴史文化課 廣野 耕造

「アウェイ」といってもサッカーや野球観戦のことではありません。

こんなことがありました。ある民間巨大商業施設建設が原因の発掘調査後、その商業施設からのお誘いで、店舗内をお借りして調査成果を展示することとなりました。ふだん当市で企画している発掘調査現地説明会や出土品展示会などに来てくださる歴史・考古学ファンは比較的高齢の男性が多いように思いますが、そのときは買い物客が対象とあって老若男女偏りなく、さまざまな方々に足をとめていただきました。なかでも印象的だったのは、学生のころは絶対「一番嫌いな学科は歴史」という感じの男女二人連れ。

男性「それ何」私「平安時代の須恵器という焼き物です。このショッピングセンターの下から出土したんですよ」男性「ふーん・・・何年前のなん?」私「だいたい1200年くらい前ですか」男性(ここで態度が一変)「えっ、うっそ!マジすか!すっげ!そんげ古いもん、ナマで見るの初めて!すっげ!ここの下で出たんすか!そんげ昔から新潟に人住んでたんすか!もっと近くで見てもいいっすか?」私「どうぞどうぞ」女性(男性の袖を引き)「ね~もういいから買い物行こうよ~」男性「もうちっと待ててば。1200年前らぞ。本物らぞ。あ~もっと歴史よく勉強しとくんだった・・・」
 結局男性はその後しばらく穴が開くほど須恵器を見つめた後、連れの女性にひきづられるようにして名残惜しそうに展示会場を離れていきました。

こちらで企画して、広報して、おいでいただくイベントは、いわば「ホームゲーム」。歴史や考古学がディープに好きな方々が来てくださることが多く、それはそれで貴重な場です。説明する私たちも勉強になります。一方で、よそのイベントに(言葉は悪いですが)便乗し、一般の人々の中に分け入って、なんとか無理やりにでも遺跡のことを知っていただく行為は、「アウェイゲーム」。歴史や考古学、文化財にまったく興味がない、さらには嫌いだという人も多いですから(佐原真氏は、考古学に興味・理解のある人は100人のうち1人でもいればいいほうだという意味のことを書いておられたと記憶しています。残念ながら私もそう思います)、いわゆる「アウェイの洗礼」を浴びることも覚悟しなければいけないでしょう。でも、上記の男性のように、ちょっとした出会いがきっかけで、遺跡の「サポーター」に転じてくれる人が出てくれるかもしれません。わずかですが、そんな可能性を楽しみに、個人的には「アウェイゲーム」をもっともっとこなしていきたいし、信濃川火焔街道連携協議会がそんな場の一つとなることを期待しています。