学芸員として博物館に勤務して約25年が経ちます。総合学習等で来館する子どもたちは年間5,000人を超えます。対応にあたり、①学習の目的を明確にする、②小学5、6年生から中学1、2年生が理解できる言葉遣い、③説明をし過ぎない、④できるだけ実物資料をじっくり見てもらう、⑤問題意識をもって調べ、考える力を育てる、という接し方を心がけていますが、なかなか思うようにはいきません。一方で、子どもらしい柔軟な発想や質問にはハッとさせられることも少なくありません。
インターネット全盛の現代にあっても、博物館や資料館でしか味わえない実物のもつ魅力や迫力、対人対話によって得られるものを大事にしてもらえたらと願っています。生業や食料に関する質問の中から主なものをいくつか紹介してみましょう。
Q:縄文時代の人たち(以下、縄文人)はどんな場所に住んでいるのですか?
A:縄文人は日当たりがよく、眺望がきいて水に恵まれた場所に好んで住んでいます。木の実や獣が多くとれる森、魚が多く棲む川や海が近いことも、重要な条件の1つだったに違いありません。
Q:縄文人はどんな方法で食料を手に入れていたのですか?
A:縄文人は、狩猟、採集、漁撈という主に3つの方法で食料を手に入れています。
利用していた食料資源は、500種をはるかに超えていて、カロリーの3分の2を植物質の食料から得ていたという研究データもあります。
Q:縄文人はどんな風に食べ物を調理していたのですか?
A:食料を生のまま口にすることもあったでしょうが、多くの場合はヒトが消化できるように加熱調理されていたようです。堅果類を例にとると、ドングリは煮沸、水さらしでアクが抜けますが、トチは非水溶性のサポニンを含むので、灰汁などで中和しながらアク抜きをしたと考えられます。
Q:縄文人は栽培をしていたのですか?
A:最近の研究成果では、クリやクルミの管理栽培にとどまらず、ソバ、ヒエ、マメ類、ヒョウタン、エゴマ、シソ、アサなどを栽培し、イノシシを飼養することが始まっていたことが明らかになってきています。
Q:縄文人はグルメだったのですか?
A:厳しい自然や飢えと闘いながら、何とかトチやドングリのアクを抜いて食べられるようにしているし、動物は肉を食べるばかりではなく骨までしゃぶっていたと考えられます。食料の確保から貯蔵、保存に苦労していたと思われます。薫製、果実酒、ソバなどもそうした工夫の中から生まれてきたものかもしれません。