考古学コラム Archeology Column

コラムNo.7 発掘調査に訪れる人々

長岡市立科学博物館  新田康則

発掘調査をしていると、いろいろな方がやってきます。

犬のゴンタを連れて、朝、昼、そして夕方に寄っては「何か出たかぁ」と尋ねてくるおじさん(一日のうちにそう状況が変わるわけではないので困惑してしますこともありましたが)。お孫さんを保育園に送り迎えに行くたびに昔の地形などを少しずつ教えてくれるおじいさん。庭で鈴なりになったというゴーヤを見ず知らずの私に分けてくださったおばあさん。40年以上前の発掘調査で目にした縄文土器の造詣に感動し、それを契機に陶芸を始めて、今では教室をされているのだという先生などなど、今年の調査でも多くの人と接する機会がありました。その中で一番心に残っているのは、あるおじいさんとの、ほんの15分ほどの出来事です。

いつものように調査をしていると、おじいさんがやってきて「遺跡はあそこにあるんだよ」と、杉林に囲まれた小高い山を指差しました。ちょうどお昼休みに入ろうかという時間だったので、おじいさんに、その場所まで案内していただくようお願いしました。

急な坂道を登っていくと、そこは畑が広がる台地でした。日当たりも良く、眺めの良い場所です。あちらこちらに縄文土器や石器がポロポロと散らばっていました。(夕方博物館に戻って調べたところ、恥ずかしいことに、明治時代から知られていると遺跡でした)

「あの辺は土器のかけらが多くて、この辺は矢じりが拾える」「本当はこんな天気続きの日じゃなくて、雨上がりがいいんだよ。一番いいのは雪どけのころだなぁ。矢じりが浮いてくるんだ」と、おじいさんは丁寧に教えてくれました。

表面採集には雨上がりや雪どけの時期が良いのは百も承知なはずなのに、自然に「へぇ~」という声が出ていました。堂々というのか晴れやかというのか、おじさんの何とも言えない表情にのみ込まれてたのでしょう。遺跡の主(ぬし)と話しているかのような気分になったのです。おじいさんは、早春、畑の畝を起すたびに出土する石鏃(矢じり)を採集しては、大切に保管されているそうです。お宅には、おじいさんのお父さんが採集された大きな石斧(石おの)などもあるとのこと。

それらを一度拝見ものだと思いつつも、うっかりお名前を聞きそびれてしまったのは残念でなりません。春になれば、きっとまたあの場所で会えることでしょう。

秋、稲刈り後の田んぼなどにポツンと1台重機が見えたら、それは試掘調査をしている現場かもしれません。遠慮せずに「何をしてるの?」と声を掛けてみてください。もし状況が許せば、遺跡の調査や、土の中から取り出したばかりの土器や石器を実際にみて触れるチャンスとなるはずです。そして何より、それが新しい出会いになるからです。

さて、来年はどんな出会いが待っているのでしょうか?今から楽しみです。